南イタリア遠征記
〜グランブルーの青い海と俊輔に逢いたくて〜

☆レッジョ編☆第五日目☆




4月26日月曜日。曇り時々晴れ。

☆レッジョのお土産探し
今日はいよいよレッジョ最終日。とはいえ夜9時10分発の夜行列車に乗るまでは時間がたっぷりある。というか、たっぷりすぎる。12時にチェックアウトしてしまうと、夜まで外で時間を潰すのが大変だと思い、夕方まで部屋を使わせて欲しいと昨日フロントで頼んでみた。
しかしフロントの返事は「申し訳ありませんが、予約が詰まっているので無理です」。どちらか一部屋だけでいいんだけど、それもできないらしい。追加料金を払ってもダメらしい。海が見える結構高い部屋に連泊したというのにつれないなあ。チェックアウト後に荷物は預かってくれるというけど、ちょっとミラマーレに対する印象が悪くなる。こういう時は小さいホテルの方が融通が利くのよね。

朝食を取った後、まずはスポーツ用品店のASSISTにもう一度行き、AQUARIUSの掲示板仲間のあわびさんに頼まれていたレッジーナのユニを購入。店のお姉ちゃんたちは私のことを覚えていて「この日本人、またオフィシャルユニを買ってくれたわ」という感じでニコニコだった。

次にうさこさんがガリバルディ通りにある酒屋でリモンチェッロの小瓶を見つけたので、そこの店に連れて行ってもらう。あった、あった。小さいし安いし御土産には最適だ。瓶の形がかわいいので、飾っておいてもいいかも知れない。これをまとめ買いして帰国後に各方面に配ったが、すこぶる好評だった。レッジョの御土産としてお勧めである。

観光地じゃないレッジョには土産物屋というものが存在しないので、自分で御土産になりそうなものを探し回るしかない。あちこちの店を探索していたうさこさんは、御土産を探す過程で心優しい人たちとの触れ合いを楽しんだようだ。
「ここのお店ではテーブルウェアを買ったのよ。あと、ここのお店ではね・・・」と、ガリバルディ通りのお店の解説をしてくれるうさこさん。もうすっかり事情通。今回私は部屋で鼻水たらして寝ていることが多かったので、うさこさんのお買い物情報は本当にありがたかった。俊輔ファンの人にはレッジーナグッズで事足りるけど、全員がそういうわけじゃないものね。



<うさこのオフサイド> TCは危険!ルイーザに感謝
レッジョ2回目の滞在で、かなり大胆になっていた私、何度かリーメイさんをホテルに残して街を歩き回りお土産あさりをしたのだが、途中、リーメイさんが帽子を買ったデパートにも寄ってみた。
別に何を買うあても無かったのだが、そのうちにきれいなラベンダー色のワンピースを見つけて、お手頃な値段に、試着してみたくなった。ついでにお揃いのシャツも着てみたいし、スカートだけのもいいかな?と両手にいっぱい抱えて、店員のおばさん(なぜかこの店の店員さんは年齢層が高い)に「試着できます?」と聞いてみる。案内されたのは日本にもよくあるカーテンの小部屋がずらりと並んだ試着室。着てみると着心地もいいし、応用もききそうだし、一つ買っちゃおうかな?

ということで、前を開けるとロングベスト風にも使えるシャツ襟のノースリーブのワンピースを買うことにした。中央の会計カウンターに並ぶまではふつうの「お買い物」だったのだが、そこで、また私の「冒険心」がムクムク頭をもたげてきた。
去年苦労した現金支払機は、今年はどこもトラブルなしでCitibankの海外キャッシュカードが使えたので、今度はトラベラーズ・チェックが使えるか、ちょっとトライしてみたくなったのである。嫌な顔をされるとは聞いていたが、こんな大きい店ならだいじょうぶかもしれない。一応聞いてみてもいいんじゃない?? レジの横の案内には、クレジットカード、TCオーケーと書いてあるし。レジに並ぶお客も多かったが、対応のおばさんたち(ここもおばさん)もいっぱいいたので、ひとりぐらい相手をしてくれるだろうと、一番近くにいた眼鏡の店員さんに「TCで買えますか?」と現物を差し出して声をかけてみた。(迷惑な客です)

店員さん、嫌な顔こそしなかったが、学校のベテラン先生みたいな目つきでTCをしげしげ。しばらくして「使えるけど、マネージャーに聞いてみないと・・」というようなことを言っている。それって、やりたくないってこと? うーん、やっぱり歓迎されてないみたいね。
「ここに書いてあるけど、やっぱりだめですかあ」
別に現金がないわけじゃなかったので、あっさり引き下がるつもりだった私。でも、なんとなくレジカウンターの人々の注目が一斉にこちらに向いてしまった気配が(汗)。いやあ、やめとけばよかったわ。
その時、うしろから「お手伝いしましょうか?」という英語が聞こえた。びっくりしてふりかえると、私と同じぐらいの年配の、きちんとした身なりのご婦人が、親切そうな笑みを浮かべて立っていた。どうやら、私が相当困っているように見えたらしく、「かわいそうな日本人を助けてあげよう!」と立ち上がってくれたらしい(笑)。

私の返事も待たずにその人は、店員さんに「マネージャーに聞かなくても、私が使い方を説明してあげるわ」と声をかけ、店員からTCを受け取るとひとつひとつていねいに説明を始めた。

「ここに、サインしてもらうでしょ?」(私が漢字でサイン)
「パスポートを見せてもらうのよ」(あわててパスポートを差し出す私)
「そして、(TCの裏を指して)ここにパスポートナンバーとか、住所とか全部写してね」(一生懸命書き写すおばさん店員)
「それから、サインは漢字だから読み方も書いておいた方がいいわね」(ふむふむとまた書くおばさん)
隣で見てる私、あまりたいへんそうなので「面倒かけて、もうしわけないわあ」と恐縮してしまって、おろおろ。でも、その婦人は「いいのよ、当然なんだから」と平然としている。
そして「これでオーケーよ。じゃ、おつりを渡してね」。
要するに、TCの扱いに慣れていないので、使えるはずの店でもやり方が分かる人が少ないということなのね。

店員さんがTCの処理をして、品物を包んでくれ ている間、私たちはお互いのことを話し合った。
「へえー、サッカー見に来たの?? ナカムラに会いに?」
でも、いまいちサッカーには熱がなさそうだ(苦笑)。
彼女は英語の先生をしているらしい。道理できれいな英語できびきびした印象なわけだわ。さらに、日本にも行ったことがあり「東京に日本人のお友達もいるのよ」。お隣でにこにこしていた、お連れのふくよかなご婦人はイタリア語の先生だそう。
「私は日本語の先生だから、じゃ、みんな先生だわ!」と大笑い。
「ホテルは、ルンゴマーレ?」と聞くので、「いえ、ミラマーレ」と言うと「まあ、そうなの?」すごく意外そうな顔をされた。
ミラマーレに泊まる人はこんな庶民的な店には来ないのか、それともミラマーレが評判が悪いのか、ちょっと気になったけどそこまでは聞きそびれた。でも、話し振りからルンゴマーレ(一応三ツ星)というホテルも悪くなさそうだったので、今度来るときはそこが狙い目かな?(また来る気だ)

そのうちに、品物とおつりが来た。
「これからどうするの?」
「もう少しこの通りでお買い物しようかと」
彼女は「じゃ、楽しい旅行を続けてね」と言って出口に向かいかけた。
もう一度ちゃんとお礼を言おうとして、私はまだ彼女の名前を聞いていなかったことに気づいた。
「あの、すみません、お名前はなんとおっしゃるのかしら」
「私はルイーザよ、こちらはティティ」
「ありがとう、ルイーザ、ティティ。ほんとにご親切にしていただいて、すごく助かりました。お二人に会えてよかったわ」
型通りのあいさつしかできなくて残念。その分、とっておきの笑顔で手をふったんだけど。元はと言えば、必要も無いTCを興味本位で取り出したことから生まれた縁だけど、行きずりの人がわざわざ声をかけてくれたのがうれしかった。日本に好意を持ってくれているらしいのも。

でも、ひとつ残念なこと。日本に帰ってから思い出すたびに、「ああ、ちゃんと住所を聞いておくんだった」と後悔する。お礼状のひとつも書きたかったのに。思いがけない騒動で、そこまで気が回らなかった。私って、いつもそう。今度行ったら、また会えるかな?(ほんとに行く気だ)そしたら、ほっぺとほっぺで挨拶しよう!!(ダメ?)
ルイーザ、ほんとにほんとにありがとうございました!! いやあ、でも、TCは手強い。レッジョで使うのは結構たいへんかも。いつもルイーザがいてくれるなら別だけどね。でも、もしかしたらあの店員さん、ちゃんとマスターして、もういつでもオーケーかしら???



<うさこのロスタイム> 最後に手紙を
今日はいよいよレッジョを離れる日。この旅の始まりの地パレルモで買った絵はがきをずっと出しそびれていた私は、今日こそなんとしても郵便局を発見するぞ!と意気込んでいた。一緒に来られなかったMさんにどうしても出したい1枚だった。レッジョに入るまで郵便局に巡り会えず、レッジョに来てからもなぜか、郵便局が発見できずにいた。(はがきは、次の目的地に着くたびに少しずつ書き足され、とうとう日記みたいになってしまっている)

地図の上ではホテルのすぐ近くらしいのに、同じような建物が続いていて、どれがどれやら区別がつかないのだ。2度ほど付近を歩き回ったがとうとうわからずじまいだった。
切手自体は新聞スタンドでも買えると教えてもらったけれど、日本までいくらかかるか、誰に聞いてもわからないのだ。こんなところから日本に手紙を出す人なんてほとんどいないのかな? 
えーん、郵便局やーい。今日見つからなかったら、このはがきは日本に着いてから出すことになってしまう。せっかくなら、レッジョの消印で出したかった。

それに加えて、もうひとつ出したい郵便物もあった。旅の終わりに、もう一通、俊輔への手紙を書くことにしたのだ。
日本からではいつ着くかわからない手紙も、ここで投函すればすぐ届くはず。日本からならメールで送っていた俊輔へのメッセージを手紙の形でもう一度届けようと、荷造りをすませたホテルの部屋で私は便せんを取り出した。
タオルミーナで書いた時と、状況も私の心の状態もかなり違っていた。私が、落ち込んだ末に得た光のようなものを、俊輔にも伝えておきたかった。それをせずに帰ってしまうのはすごく心残りだった。小さな便せん1枚の簡単な手紙だったが、余白に「負けるな!」の思いを込め、封をした。どうか、少しでも俊輔の力になれますように。

そんなわけで、今日の郵便局探しには気合いが入っていた。絶対に見つけてやる!
そこで、ここと思しき建物に、片っ端から入ってみることにした。地図で見当をつけた場所には4つぐらい建物がある。どれも銀行や市の関係らしい表示があるが、郵便局とはどこにも書いていない。
最初の建物は門が閉まっていて中には入れず。次は門は開いているものの、建物に入ろうとしても重い鉄のドアはびくとも開かない。どうなってるの?

ぐるりとまわって、ガリバルディ通り近くまで出てみると、なんとなく人気(ひとけ)の感じられる建物があった。入ってみると古い学校みたいで、1階は工事中だが2階に通じる石の階段がある。上っていくと廊下を囲んで部屋がいくつかあり、一番手前の部屋の入り口にシャツ姿の青年が4、5人、たむろしていた。ちょっとためらったが、思いきって尋ねてみる。

「あの、すみません。ここ、郵便局ですか?」

青年たちは、一瞬けげんな顔をしたが、すぐに理解してくれて、「ここじゃないよ」「外に出て、このビルの裏だよ」というようなことを身ぶりを交えて教えてくれた。フェリーの港の時みたいに、一時ああでもないこうでもないと我先に口を開いて大騒ぎ(苦笑)。こっちの人はほんと世話好きなんだわ。ありがたいことです。

礼を言ってあわてて外に出たが、裏といっても、さっき見た建物は開いてなかったし、とても郵便局、という雰囲気ではなかった。うーん、どこなんだよー。
しかたなくホテルへもどろうとした時、建物の横に、もう一本別の道を発見。今まで通ったことのない通りだ。果たしてそこを行くと、少し先の建物に「postale」の文字が。

「やったあ・・・ここだ!」

中にはカウンター式の窓口があり、驚いたことにたくさんの人が行列している。切手を買うのにこんなに並ばなきゃいけないの? まいったなあ。でも、しかたないか、せっかく見つけたんだもの。

覚悟を決めて列に並んでから、俊輔宛の手紙に自分の住所を書き忘れたのを思い出した。別に書かなくてもいいんだけれど、ホテルの住所で出しておけば何かの時に役に立つかも、とペンを取り出して、はたと困ってしまった。ミラマーレってどんなスペルだっけ?名前だけにしようかとも思ったが、切手を買うまでにまだ時間がありそうだったので、前に並んだ上品なおばあさんに声をかけ、おそるおそる聞いてみた。

「すいません。アルベルゴ・ミラマーレって書いてくれませんか?」

ペンと紙を差し出して、通じない部分はほとんど手話だ(笑)。おばあさんは、お連れの男性をちょっと見てからにっこりうなずくと、「こう、こう、こうよ」なるほど、なるほど、そう書くのか。グラッチェ! 感謝です、おばあさん。
宛先は、「チェントロ スポルティーボ サンタガタ、レッジーナ、シニョール・シュンスケ・ナカムラ」しか書いてないけど、多分だいじょうぶよね。さて、これで一安心。

ところが、20分ぐらいしてやっと自分の番が来て、係のおばさんに「切手ください」というと、「切手はあっち!」なんとその列は郵便ではなく、保険か年金かなんかの相談会の列で、郵便局の窓口は隣の部屋だったのだ。えー、ショック! あっちはガラガラじゃないの(泣)。

あわててすっ飛んでいく。窓口で、日本宛のはがきに貼る分と合わせて切手を購入。さらに封筒を見せて「これで、大丈夫?」と宛名書きを確認してもらう。窓口のお姉さんはさっと目を通して「シィ!」切手を買って、今度こそ一件落着。よかったあ。なんとか無事届いてね。切手が貼られた封筒は、なんだか天使の羽根が生えたようでした(笑)。

でも、いざ投函する時になって、おもてのポストの前で当惑。同じようなポストが三つならんでいて、どこへ入れたらいいのかさっぱり分かりません。仕方が無いから適当に入れたけど、Mさん宛のはがきが2週間もかかってしまったのはそのせいかしら?? いや、レッジョでは日常茶飯事だったりして・・・(汗)。



☆レッジョの許婚(いいなずけ)
うさこさんはとうに荷造りを済ませ郵便局を探しに出かけたが、私はチェックアウトの12時ギリギリまでバタバタと荷物の整理を続けていた。忘れ物がないか部屋の隅々まで点検してから、フロントでチェックアウトの手続きをし、荷物をフロントの脇にあるクローゼットに預ける。
それからうさこさんと私は写真屋へ向かった。昨日は閉まっていたスタジアムの近くのあの写真屋だ。昼休みになる前に行って俊輔の写真を買わなくては。

昨日と同じルートでスタジアム方面へテクテクと歩いていく。途中のレッジーナグッズを売っているショップの前までくると、うさこさんが思案顔で足を止め、ひとつ買い忘れたものがあるから先に行っててくれという。待っていようかなとも思ったけど、まあ道は分かっているので(まっすぐ進むだけ)一人で先に行くことに。

5分ほど先に進むと道路工事をやっていて、休憩中の作業員約10名がまるく円になってコーヒー片手に談笑していた。
そのうちの一人が私に気が付くと、両隣の同僚に肘で合図。肘の合図は更にその隣に広まり、やがてオレンジ色の作業着を着た全員がニヤニヤしながら私を見つめるという事態に。う、嫌な予感がする。来るぞ、来るぞ、来るぞ〜。

そそくさと通り過ぎようとしたら「ボンジョルノ〜!」の大合唱。
挨拶されたのに無視してはいけないと思い「ボ、ボンジョルノ〜」と引きつりながら返事をしたその瞬間、わーっと全員に取り囲まれてしまった。きゃ〜、助けて〜!

お決まりの「ジャポネーゼ?」「ナカム〜ラ?」という問いかけには「Si」と答えるが、その後はさっぱり分からない。
すると50代くらいの赤ら顔のオジサンが私の左手を取って薬指をさした。ははあ、結婚しているかどうかを尋ねているのか。通じるかどうか分からないけど「シングル」と答えると、全員が「ほほう、そりゃいいや!」というふうに盛り上がる。
そして皆にはやし立てられながら一人の男の子が私の前に差し出された。なんですか?

「こいつはマルコっていうんだ!」と赤ら顔のオジサン。はあ、そうですか。
マルコは前歯の欠けた無邪気な笑顔を私に向けてくる。推定年齢20歳。いや、もしかして18歳以下かも。
そのマルコはオジサンに何かを言われて恥ずかしそうに首をぶんぶん振った。しかし、周りにけしかけられて意を決したように、いきなり私の隣に立って腕を組んできた。ちょっと、なにすんねん、このガキは。

「どーだ、お似合いじゃないか!」というふうにオジサンがマルコの肩を叩き、周りの連中も口笛を吹いて大はしゃぎ。
あ、あの、私、どうせなら大人の男性がいいんですけど。こんな若い子、はっきり言って犯罪だよ・・・。
やがてオジサンがウエディングマーチをハミングして、周りは拍手喝さいの大盛り上がり。マルコも満面の笑みで楽しそう。どうでもいいけど、前歯は2本も欠けている。
あ、あの、私、俊輔の写真を買いに行きたいんですけど・・・。
こんな結婚式ごっこに付き合っている暇はない。写真屋が昼休みに入っちゃったら困るじゃないかー!

マルコの腕を振り解き、「ナカムラ、フォト!」と言って写真屋の方角を指差して、ついでに時計も指差して走る真似をした。すると急いでいるというのを分かってくれたようだったので、「チャオ!」と叫び、そのまま走り去ろうとしたら、オジサンに腕をつかんで引きずり戻された。もう、いや〜ん。
「マルコ、、、あー、うー、あー」
最後に私に何か言いたいオジサンが言葉が出てこなくて唸っていると、誰かが「フィアンセ!」と助け舟を出した。そうそう、それだよ!という感じでオジサンは顔を輝かせ、マルコを指して「マルコ、フィアンセ! マルコ、フィアンセ!」と繰り返す。
はいはい、分かったよ。ヤケクソになって「Si, Si, Si」と首を縦に振ると、最後にマルコと握手させられて、ようやく解放してくれた。
ということで、レッジョには私の婚約者がいる。いつ結婚しようか、マルコ。



☆俊輔の写真を買う
写真屋に到着する前にうさこさんが私に追いついたので一緒に店内に入った。この小さな写真店の名前は「Diana」という。対応してくれた店員さんは若い女の子で、店の奥で男性たちが作業していた。

うさこさんがナカムラの写真を見せてくださいというと、店員さんが俊輔の写真が収められたアルバムを3冊くらい持ってきてくれた。さっそくアルバムを開いて、きゃあきゃあ言いながら写真を吟味する。試合中のきりりとした俊輔の写真もいいけど、ピッチ外のかわいい系の写真もいいわ〜。
まずは試合の日に目を付けた店の外に飾ってあるステキな写真をゲット。とても男前に写っていて惚れ惚れしてしまう。

レッジョに来てから俊輔は急激に写真写りが良くなった。ストレートパーマをかけたので、癖毛の跳ね具合を気にしないでいられるようになったことが大きいのかなと私は思う。実は私もすごい癖毛で、縮毛矯正をかける前はいつも写真を撮る前に髪の毛ばかりを気にしていた。湿気が多くて癖がひどいときは写真なんか撮りたくなかった。だから今の髪型になって堂々とカメラに向かえるようになった俊輔の気持ちが痛いほど良くわかる。
あとは自信だろうか。海外移籍してここまで何とかやってこられている自信が顔に表れて、俊輔の表情を明るく余裕のあるものにしているんだと思う。

あれもこれもたくさん選んで、店員さんに会計をお願いする。店員さんはコッツァのファンなんだそうだ。
ふうん、やっぱりコッツァはレッジョの女子に人気があるのね。私たちの「ふーん」という態度に若い店員さんは「コッツァが嫌いなの?」と心配そうに聞いてきた。
「ううん、そんなことないわよ」とあわてて笑顔で答えるうさこさん。「嫌いだなんて言えるわけないじゃないねえ」と店を出た直後に小声で本音を漏らしていたけど。(笑)

「私はフランチェスキーニも好きよ!」とイタリア語で会話に参加できない私は日本語でそう言って、元気にフランチェスキーニ君の写真を指差した。そしたら店員さんは「そうなの、フランチェスキーニなの。コッツァじゃないのね」という感じで寂しそうに微笑んだ。あ、あの〜、店員さん、そんなに悲しそうな顔をしなくても・・・。

たくさん写真を買ったオマケにイタリア代表のピンバッジを付けてくれた。ワーイ、ありがとう!
私もお礼に例のファミマのチラシを一枚置いてきた。コッツァファンの店員さんが俊輔のチラシを心から喜んでくれたかどうか疑問だけど・・・。

写真屋を出て、来たときと同じ道をそのまま戻る。先ほどの道路工事の現場に差し掛かったら、オレンジ色の作業着軍団は真面目に作業に没頭していた。そのまま通り過ぎようとしたとき、ドリルで道に穴をあけていたマルコが私に気が付き「チャオ!」と大きく手を振ってきた。「チャオ、マルコ!」と私も手を振り返すと、うさこさんが驚いて「なになに?誰なの?」と聞いていた。「私の婚約者なんです」「ええ?!」ますます目を丸くするうさこさんであった。



☆海辺のレストラン
ランチは去年うさこさんが来たことがある海辺のレストランで取ることにした。ここは雑誌の取材で俊輔とアスカルゴルタが対談した場所だし、レッジーナの選手たちもよく訪れるらしい。レッジョ滞在中にどうしても訪れたかった場所のひとつだった。

店内には数組のお客さんしかおらず、楽勝で窓際のテーブルをゲット。今日はあいにくの曇り空で真っ青な海は見られないけど、すぐそこが海で開放的な気分になれる。晴れていれば見られるはずだった海と同じ青のテーブルクロスが目に爽やかだ。去年うさこさんが来たときには、あまりに美しい海に見とれてしまって食事をじっくり堪能できなかったらしい。それでは今日は去年の分も存分に堪能しましょう!

手渡されたメニューは何と日本語訳つき。あらステキ。いったい誰が訳してくれたのかしら。
大好物のボンゴレビアンコを食べたい気分だったのでムール貝とアサリのスパゲティを頼んだら、今日はアサリがないのでムール貝だけになると言われた。アサリの入っていないボンゴレビアンコ・・・。まあ、いいか。もう一皿、ズッキーニとエビのスパゲティを頼んでシェアできるように小皿をお願いする。それと最後だから奮発して白ワインもオーダー。

しばらくして出てきた料理は二皿とも大当たり。ムール貝のスパゲティはトマトソースがベースだった。ということは、アサリがあったとしてもボンゴレビアンコじゃなくてボンゴレロッソだったわけね。
そういえばレッジョに来てからトマトソースのパスタしか食べていない気がする。この辺りはトマトの名産地なので当然なのかな。まあ、美味しければトマトソースでも塩味でも何でもいいんだけどさ(←節操のない女)。
このムール貝のスパゲティは魚介のうまみがパスタに沁みていて涙物だった。もう一皿はエビが手長エビっぽくてソースにコクがある。両方ともシンプルなのに何でこんなに美味しいんだろう。きっと新鮮な魚介類を使っているからだろうな。あまりに幸せでホッペが緩みっぱなしの私たちであった。

私の前(うさこさんにとっては後)のテーブルではおじさん3人が食事をしていた。
一人はシックなこげ茶のジャケットを着ていて、ウェーブのかかった長めの髪は白髪6割、黒髪4割。ちょっとベートーベンみたいな雰囲気。もう一人は仕立ての良い白いシャツを着た小太りのおじさん。もう一人は格子柄のチェックのベストを着たちょっと頭の薄いおじさん。3人ともなかなかのオシャレさんだ。「おじさま」と呼んであげてもいいかもしれない。でも、やっぱりおじさんと呼ぶね。(笑)

食事を終えたうさこさんがトイレに行くために席を外したら、そのおじさん3人組が一斉にこちらを振り返った。う、嫌な予感がする。来るぞ、来るぞ、来るぞ〜!

すぐに手前に座っていた小太りおじさんがお酒のボトルとグラスを持ってこっちにやってきた。
「お嬢さん、お酒をおごらせてください」(←イタリア語なので想像)
目の前で小太りおじさんがグラスに半分ぐらい酒を注いでくれる。匂いをかいでみたけどワインじゃないぞ。一口飲んでみたら、これがえらい強烈な酒だった。ウゾーみたいな味。
おじさん3人はニヤニヤしながら私が飲むのを見守っている。多分むせたりするのを期待していたんだろうなあ。残念でした。私はウワバミとして有名なのさ。

「うーん、すごく強いお酒ですね」(←私は英語)
そう言いながらも私が平然と飲み干すと、ヒューと口笛を吹いて嬉しそうに首を振るおじさんたち。はちきれそうな笑顔でお代わりを注いでくれた小太りおじさんは、私がそのお酒を気に入ったと思ったみたいで、そのままボトルを私たちのテーブルに残してくれた。い、いや、気持ちはありがたいけど、これ全部飲んだら間違いなくぶっ倒れるぞ。

「あらあら、さっそくお酒をご馳走されちゃっているのね」
席に戻ってきたうさこさんにも一口飲んでもらったが「うわあ、強いわね」と顔をしかめる。当然飲みきれないので、ボトルはおじさんたちにお返しした。

ベートーベンおじさんが「チーノ?(中国人)」と聞いてきたので、「ジャポネーゼ」と答えると、お決まりの「ナッカムーラ!」という言葉が返ってくる。昨日のパルマ戦にはナカムラは出なかったねという話から始まって、双方片言のイタリア語と片言の英語でなんだかんだとあれこれおしゃべりした。
最後に小太りおじさんが「次に南イタリアに来たときには絶対にこの町を訪ねなさい」と紙ナプキンに地図を書いてくれたけど、それがどこなのかさっぱり分からない。帰国してから地図と照らし合わせて場所を特定しようと思い、紙ナプキンを大事にバッグにしまったのに何故か紛失。変だなあ、いったいどこで失くしちゃったんだろう。次はそこを訪れる気満々だったのに。

強いお酒で昼間からちょっぴり酔っ払った私たち(ワインも飲んだしね)、上機嫌でおじさんたちにお礼を言ってレストランを後にした。レッジョ最後のランチは美味しい食事と楽しい会話で大満足だった。

☆ストーカーわんちゃんとジョギングの男性
レストランを出たあと厚い雲の間から薄日のさす空と岩場の海をちょっと撮影。海岸通りへのスロープを上って行く時、さっきまでレストランのテラスにねそべっていた黒いわんちゃんがのこのこついてきた。
「お見送りしてくれるの?いい子だね。よしよし」と二人して頭をなでてやると、人なつこそうな目で見上げてくる。あまり器量は良くないけど、愛嬌があってかわいいわ〜。

まだ荷物を取りにホテルに戻るには早すぎるので、食後の散歩でもしますかと遊歩道を北に歩き始めた。しかし、気がつくとさっきのわんちゃんがまだついてくる。

「そろそろ戻らないと迷子になっちゃうぞ」と声を掛けてもまったく戻る気配はない。
「ま、いいか。私たちよりはレッジョに詳しいだろうし」と笑ううさこさん。

しばらく歩いてから一休みするためにベンチに腰をかけると、わんちゃんが待ってましたとばかりに尻尾を振ってまとわりついてくる。レッジョではわんちゃんも友好的なのね。ついつい調子にのって首の後をなでてあげたりして、思い切り遊んであげてしまう私たち。

その時ふと視線を感じて目を上げると、ジョギング途中の上下スエットの男性(30代前半?)がじっとこちらを見ていた。一度走り始めて、また戻ってきて、またこっちを見つめるという動作を何回か繰り返している。う、これは来るぞ、来るぞ、来るぞ〜と思っていたら、やっぱり来た。(笑)

“Excuse me. Do you speak English?”
私の前に立った男性は思いがけない言葉を口にした。ええ、話しますとも!

私はずっとレッジョの人と英語で俊輔のことを語り合いたいと思っていた。彼らが俊輔のことをどう思っているのか、とことん本音を聞かせて欲しいと思っていた。やっとそのチャンスが巡ってきたのだ。うれしいよ〜。
“Yes, I do.”
おもいきり愛想良く返事をすると、男性は私の隣にぴったり体をつけて座ってきた。まあ、許そう。

「日本人ですか?」
「はい」
「学生ですか?」
「働いているけど、大学生でもあるよ」
「いつレッジョに来ましたか?」
「4日前」
「飛行機で何時間かかりますか?」
「半日以上」
「いつ日本に帰りますか?」
「明朝のフライトで」

なんか職務質問されているみたい・・・。
どうやら男性は英語がしゃべれるから話しかけてきたのではなく、私を相手に英会話の練習がしたかったみたいだ。その証拠に質問が尽きると、首をひねりながら一生懸命次の質問を考えている。こりゃ会話を膨らませることは無理かな。でも、今度は私から質問してみよう。

「ナカムラは好き?」
「あーーー、いい選手だと思うよ。」
「今季は出場機会が少ないよね」
「あーーー、カモレーゼは彼を、、、使わないね」(だんだん英語が怪しくなってくる)
「なんでだと思う?」
「あーーー、それは、分からないけど、、、うーーーー、あーーーー」
男性は栗色の巻き毛をかきむしって考え込んでしまった。答が見つからないのか、英語がわからないのか・・・。多分両方だな。わざわざレッジョまで来てくれたジャポネーゼをがっかりさせない返事が思いつかないし、仮に思いついたとしても英語で言い表せない。そんな感じ。
しばらく唸っていた男性だったが、突然「その犬、きみの犬?」とイタリア語で聞いてきた。ついに英語を放棄したな、こいつ。

うさこさんが「じゃなくて、あそこのレストランの犬だよ」と答えてくれた。それからはイタリア語9割、英語1割くらいで話しかけてきたけど、私がイタリア語がからっきしダメだと分かるとだんだん居心地が悪そうになってきた。
やがて立ち上がると「チャオ!」と手を振って行ってしまった。はいはい、バイバイ。英語の勉強がんばってね。私が次にレッジョに来るときにはサッカー談義が出来るくらいに上達していておくれ。

さて、私たちも、最後にもう一度、街をひと回りしてきましょうか。腰を上げた私たちだったが、なんとわんちゃんも一緒に来るつもりみたいだ。のんきに尻尾を振ってついてくる。いったいどこまでついてくる気だろう。どうしよう。うさこさんと顔を見合わせる。

「まずいですよ。なんとか振り切りましょう!」
スタスタと歩みを速めるが、めげずにトットとついてくるわんちゃん。ちょっと無謀に車道を横切るが、それでも根性で追って来るわんちゃん。ひょえ〜、ちょっとしつこいぞー!
このわんちゃん、絶対にオスに違いない。あんたも典型的なイタリア男なのね。

おっと、そんなことを考えている場合ではない。このままではホテルまで来てしまいそうだ。さすがにうさこさんも私も焦る。さらに緑地帯を越えて反対車線を渡ったところで、ラッキーなことに、校外授業らしい子供たちの一団に出くわした。
しめた、今だ! 子供たちの間を縫って角を曲がり、必死にガリバルディ方面へ坂道を急ぐ私たち。たかがわんちゃん一匹に、こんなに必死になっているのが情けないけど、仕方がない。恐る恐る振り返ると、さすがに子供の大群に巻き込まれて、わんちゃんは私たちを見失ってしまったようだ。やった、遂にまいたぞ!

ガリバルディ通りにたどり着いても、しばらくビクビクして辺りをうかがっていた私たち。でも、わんちゃんはもう追っては来なかった。遊んであげていたつもりでも、今考えると、案外遊ばれていたのは私たちの方だったのかも・・・。



☆ドゥオーモ&アラゴン城見学
ストーカーわんちゃんを振り切るために走り回った私たちは、どこかに座って休みたいというのもあって、ガリバルディ通りにあるドゥオーモを見学することにした。
とりあえず祭壇の近くまでいって、長椅子に腰掛け、疲れた足を休める。ほっと一息ついて周囲をゆっくりと見渡すと美しいステンドグラスの数々が目に飛び込んでくる。こんな小さな町に、こんな立派な教会があることに正直驚いた。
中にいるのは家族連れでお祈りに来ている地元の人たち。パレルモで訪れた観光客で溢れかえるドゥオーモとは全然違う。おごそかな表情で心静かに祈りを捧げる人たちを見ていると、座って休みたいがためにここに来たことが申し訳なくなってくる。信仰心はまったくない無宗教者の私だが、こういう心落ち着く空間は大好きだ。

「俊輔はここに来たことがあるのかしら」
隣でうさこさんが呟く。私も同じことを考えていた。
「来ているといいですね」
心からそう思う。辛いことをたくさん抱えている俊輔を癒してくれる場所だと思う。レッジョにこんな場所があることに感謝したい気持ちで一杯になった。

わりと長い時間ドゥオーモの中で過ごした後、うさこさんにドゥオーモの裏手にあるアラゴン城に連れて行ってもらった。城といっても円筒形の塔と外壁の一部が残っているだけで中には入れない。周りは駐車場と緑の多い公園になっていて、地元の人々の憩いの場になっている。あれこれアングルにこだわって城の写真を数枚撮り、さらに裏の通りを散策した後は、トイレに行きたくなったのでバールでお茶することにした。

バールに入って真っ先にトイレに向かったら、何故か店のお兄さんに使っちゃダメだと止められた。ええ! 何で?! 私はトイレに行きたくてここの店に入ったのよ!

背の高いスラリとしたお兄さんの身振り手振りから判断すると、トイレの床にタイルを張ったばかりなので、あと20分は使えないという。いや〜ん、なんで営業時間中にそんなことしてるのよ〜! 営業時間が終わってからやりなさいよ〜!

仕方がないのでテーブルについてカプチーノを注文する。しかし頭にあるのは「トイレに行きたい!」ということのみ。早く時間よ経ってくれ〜!

やっと20分経過して、お兄さんがトイレに行く許可をくれた。しかし、またしても身振り手振りで丁寧に、タイルが剥がれないよう静かに入りなさいという説明を始めるお兄さん。うわ〜、早く使わせてくれよ〜。これ以上我慢を強いるのは勘弁してくれ〜。泣きそうな顔でお兄さんの顔を見つめ、説明終了と同時にトイレに飛び込む私。ああ、本当に辛かったよ〜!
膀胱を解放した後で、ようやくカプチーノを味わう余裕ができた。時計を見るとまだ6時にもならない。9時まではまだまだ時間があるなあ。でも、もうこれ以上行くところもないし、歩き疲れてしまってうろうろする元気もない。結局1時間近くそこでのんびり過ごしてからミラマーレに荷物を取りに戻った。



☆逆走タクシー再び
ミラマーレに着くとクローゼットから自分たちのスーツケースを取り出して、とりあえずロビーのソファーに腰掛けた。ああ、心地よいこの椅子から動きたくないわ・・・。
とはいえ、いつまでも座っているわけにもいかないので、フロントでタクシーを呼んでもらう。今まではうさこさんがおばちゃんタクシーを指定して呼んでもらっていたのだが、この時は珍しく私がフロントにタクシーを依頼して、そして、うっかりおばちゃんタクシーを指定するのを忘れてしまったのだった。

そのことに気づいたのは、タクシーを呼んでもらってから5分以上経ってからのこと。あちゃ〜、今更キャンセルしても遅いな。もうすぐタクシーが到着する頃だ。どうか偶然おばちゃんのタクシーでありますように。しかし、祈りも虚しく、ミラマーレのエントランス前につけたタクシーはおばちゃんのではなかった。

今度のドライバーはきちっとした身なりの白髪のおじいさんだった。今までのドライバーたちとは雰囲気がちょっと違う。
後日「世界の車窓から」のHPを見たら、撮影日記にこのときのドライバーが出ていてびっくり。うさこさんと「あの時の運転手さんだよね」と確認し合った。

このおじいさん、身なりは他のドライバーたちとは違うけど、運転スタイルは同じだった。ルンゴマーレの駅へ向かう方の車線が混んでいるのを見ると、当たり前のように平然と反対車線の逆走を始める。私たちは時間がたっぷりあるから急ぐ必要はないのだけど、渋滞にはまるなんてことはおじいさんの美学に反するらしい。それにしても今更逆走くらいでは驚かなくなってしまった私たち。慣れって恐ろしいわ。



☆7ヶ国語を操る男の子
駅に到着したものの、まだ2時間ほど時間を潰さなければならない。どうやって時間を潰そうか思案していたら、うさこさんが突然「あー!」と叫んだ。
うさこさんが指差す先は列車の切符の自動販売機。そうだよ、これがあったのを忘れていたよ。これを使えば英語の指示に従って楽にチケットを買えたんだよ。うにさんの旅行記でも紹介されていたのに、どうして窓口で買っちゃったんだろう。
実際にいじってみたら、ローカル線からESの予約・取り消し、時刻表の検索まで簡単にできる。こんなに便利なのに誰も使わないから並ぶ必要もない。ああ、思い出せなかった私のバカバカバカ。まあ、いいや。次にイタリアに来たときはこれを使おう。

今日の昼はしっかり食べたのでお腹がまだ空かない。そこで何か買って列車の中で食べましょうということになった。
先にうさこさんが買いに出かけたので、私は駅の待合スペースに並んでいるプラスチックの椅子に腰掛けて荷物番をしていた。少し離れたところには大きな荷物を抱えた家族が座っている。みんな汚れて擦り切れた服を着ていて、顔も薄汚れている。ジプシーみたいだけど、こんな田舎町にもジプシーがいるのかしら。

汚れてはいるけどキレイな顔立ちの10歳くらいの男の子が私の前にやってきて、“Where are you from?”と尋ねてきた。お金をせびられるかもしれないし、関わらない方がいいと思って英語が分からない振りを決め込む。すると今度はスペイン語で尋ねてきた。私は欧米諸国に行くと時々メキシコ人に間違われるので、スペイン語で尋ねてきた男の子の気持ちはよく分かる。それでも黙っていると次はなんと中国語で尋ねてきた。これにはちょっとびっくり。
しかし驚きを顔に出さないで、あくまでもなに言っているのか分からないという無表情を貫く。男の子は私の顔を繁々と覗き込み「あれ、中国人でもないの?」というようなことをイタリア語で呟くと、今度はフランス語で聞いていた。おいおい、どっからどう見てもフランス人には見えないだろうが・・・。
その次は音の響きから判断するとロシア語だろうか。その後は私の分からない言葉で聞いてきた。最後はドイツ語みたいだった。いったいこの子は何ヶ国語をしゃべるんだろう。

何語でしゃべっても私が反応しないので男の子は諦めて離れていったが、「本当は僕の言うこと分かっているんでしょ」と言いたげな大人びた微笑みを浮かべていた。心の中をすべて見透かしたような大きな黒い瞳に内心ドキドキの私だった。あの子の目的はなんだったんだろう・・・。



☆レッジョ最後の思い出は乱闘騒ぎ
うさこさんが戻ってきたので、今度は私が買いに行く番だ。まだまだ時間がたっぷりあるので、駅のすぐそばのバールを皮切りに片っ端から店を覗いてまわる。
そのとき駅前のマクドナルドの前でレイコちゃんと遭遇!思わず「あーーーー!!!」と叫びながら両手で手を振る私。最初キョトンとしていたレイコちゃんだが私だと気が付くと、同じく「あーーーー!!!」と叫びながら手を振り返す。
「これから夜行列車でローマへ向かうの〜」と話していたら、マックの中からFさんと、先日スタジアムの外で見かけた日本人の男の子2人が出てきた。あら、日本人同士いつの間にやらどこかで知り合ってすっかり仲良くなっているのね。若いっていいなあ。みんなで残りの滞在を楽しんでね。
4人は楽しそうに語らいながら夜のガリバルディ通りの喧騒の中に消えていった。

あちこちウロウロしたけど、なかなか「これが食べたい!」という決定打が見つからず、結局また駅の近くのバールに戻ってパニーニを買うことに。
ショーケースを覗きこんでどれを買おうか考えていたら、突然背後で怒鳴り声が聞こえてビックリして振り返った。どうやら男性客がこの店の何かにクレームをつけているらしい。それが商品なのか接客態度なのか、はたまたそれ以外のことなのか私には分からない。それに対して店の主人が負けずに大声で言い返す。そのうちクレーム男がご主人に体当たりして、今度は逆上したご主人が男を蹴飛ばす。やばい、乱闘になりそうだぞ。

カウンターの中にいた店の奥さんにとっとと買いたいものを告げて、商品が用意されるまでのあいだ店の奥の方へ避難する。恐いよ〜。まさか椅子とか飛んでこないよね。店内は止めに入った他の客まで巻き込んで、怒声が飛び交い、拳が飛び交い、物凄いことになっている。そんな中でも奥さんは全く動じず、黙々と私の注文品を袋に詰めている。さすがイタリア女は肝が据わっているわと妙なところで感心してしまった。

最後はご主人と他の客達が協力して、悪態をついて暴れまくっていたクレーム男を店の外に放り出した。路上にコロコロと転がったクレーム男はまるでゾンビのようにむっくり立ち上がる。
まだこれから反撃が続くのかと思ったら、クレーム男は中指を立てて捨て台詞を残すと、意外とあっさりと引き上げていった。これにて一件落着。いやあ、最後の最後で凄いもの見ちゃったよ。



☆さよならレッジョ
駅に戻って案内板を見上げ、私たちが乗るローマ(テルミニ駅)行の列車が到着する予定のホームまで実際に行ってみたりして時間を潰す。ここは誰でも自由にホームまで行き来できるのだ。

出発時間の9時15分までまだだいぶ余裕があるが、念のため窓口のおじさんに何時に列車が入ってくるのか聞いてみたら「もう来てるよ」と言われ、慌ててホームへ向う。エスカレーターなどない連絡通路の階段を、スーツケースを持って必死に昇り降りする。ぜいぜい。

真っ暗なホームは人影がまばら。こんな時間に列車でローマまで行く人は少ないみたいだ。とりあえず黄色い自動検札機に切符を通して日時を刻印する。これをやらないと切符を持っていても罰金を科せられるらしい。

さてさて、私たちの乗る車両はどれかしら。一番端まで行ったところでベッドが並んだ車両を発見。「ここだ!」とうさこさんが中に入ってみたが、席番号は違うし、車両番号も違う。あれぇ〜、ここ寝台車両なのに変だなあ。そこから順に中を覗きこんで座席探しをしながらホームの中央付近まで戻ったところで、近くにいたお姉さんに切符を見せて尋ねてみた。
そしたら、探し始めた車両とは全く反対側の車両を教えられた。やれやれ。結局ホームのほぼ端から端までスーツケースを引きずって大移動。やっと私たちの乗る6号車を見つけた。さあ乗り込みますか。

ところが、いざ乗ろうとして、あまりの車高の高さにびっくり。どうやって荷物を載せるんだよ・・・。すると同じ車両に乗るらしい親切なおじ様が「私に任せなさい!」と胸を張って、私たちのスーツケースを持ち上げてくれた。グラッチェ、グラッチェ。イタリア男は本当に女性に優しいなあ。

そして切符の席番号を頼りにようやくたどり着いたのは、普通の6人掛けのコンパートメント。やっぱり寝台車じゃないじゃん。あの窓口のオヤジ、どうしてくれよう。だけど、このコンパートメントは私たちしかいないみたいだ。横になって寝られるから、まあいいか。とりあえず座席に深々と身を沈め、真っ暗な窓の外を見つめる。景色が楽しめないのはちょっと寂しいな。

ほぼ定刻通りに列車はゆっくりと走り始めた。とうとうレッジョとお別れだ。
バイバイ、レッジョ。バイバイ、俊輔。
たくさんのステキな思い出をありがとう。きっとまた戻ってくるよ。


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